コラム

物流BCPとは、自然災害やサイバー攻撃、輸送網の寸断などが発生した際に、重要な物流業務を継続・早期復旧するための事業継続計画です。

物流が停止すると、商品の出荷遅延や生産停止、取引先への供給不足など、企業活動全体に影響が及ぶ可能性があります。

特に近年は、物流DXの進展によるシステム依存や人材不足など、従来の災害対策だけでは対応しきれないリスクも増えています。

そのため、物流BCPではリスクを洗い出すだけでなく、「どの業務を優先して守るのか」「いつまでに復旧するのか」「代替手段でどう継続するのか」を具体的に決めておくことが重要です。

本記事では、物流BCPの基本的な考え方から、物流停止につながる5つのリスク、BCP策定の5つのステップ、実効性を高めるための対策まで分かりやすく解説します。

物流BCPとは?事業継続計画の基本

物流BCPとは、自然災害やサイバー攻撃、輸送障害などによって物流機能が停止する事態に備え、重要な物流業務を継続・早期復旧するための事業継続計画です。

BCP(Business Continuity Plan)は、企業が緊急事態に直面した際、事業への影響を最小限に抑えるための計画を指します。

物流BCPでは、倉庫や輸送手段の確保だけでなく、在庫情報、受発注システム、人員、取引先との連絡体制なども含めて対策を検討する必要があります。

特に重要なのは、次の3つを明確にすることです。

  • 何を守るか: 優先して継続すべき物流業務
  • いつまでに戻すか: 業務ごとの復旧目標
  • どう回し続けるか: 代替拠点・輸送手段・業務手順

物流BCPは、単に緊急時の対応マニュアルを作成するものではありません。平常時から関係者と役割を共有し、訓練や見直しを通じて、実際に機能する体制を整えることが重要です。

相次ぐサイバー攻撃で物流が停止する現実

近年、サイバー攻撃によるシステム障害が、企業の受注・出荷業務に深刻な影響を及ぼしています。

警察庁によると、2026年上半期に報告されたランサムウェア被害は123件に上り、半期として過去最多となりました。

ランサムウェアとは、データの暗号化や情報の窃取などを通じて、企業に金銭を要求するサイバー攻撃の一種です。

実際に発生した物流関連のシステム停止事例

企業発生時期主な影響
日本トレクス2026年9月不正アクセスにより一部の発注・受注システムやメールが停止。FAXなどの代替手段で業務を継続
ニチレイ2026年7月冷蔵倉庫の入出庫や冷凍食品の出荷に影響。7月24日に全拠点で通常稼働へ移行
アスクル2025年10月ランサムウェア感染により受注・出荷業務が停止し、サービスの提供に影響

これらの事例から分かるのは、サイバー攻撃の影響が情報システムの内部だけにとどまらないということです。

受注情報を確認できない、在庫情報にアクセスできない、出荷指示を出せないといった状況になれば、物流現場の業務継続にも影響します。

さらに、物流業務は荷主企業や委託先、配送会社など複数の企業が連携して成り立っています。

一社のシステム停止が、取引先を含むサプライチェーン全体に影響する可能性があるのです。

だからこそ、サイバー攻撃を防ぐ対策だけでなく、システムが停止した場合にどの業務を継続するのかを、あらかじめ決めておくことが重要です。

サイバー攻撃による物流停止リスクとBCPの重要性

物流BCPで想定すべきリスクの一つが、ランサムウェアなどのサイバー攻撃によるシステム停止です。

物流業務では、WMS(倉庫管理システム)や受発注システム、配車システムなどが相互に連携しており、一部のシステムが停止するだけでも、出荷・在庫管理・配送に影響が広がる可能性があります。

実際に国内でも、サイバー攻撃による受注・出荷業務の停止や遅延が発生しています。

こうした事態に備えるには、セキュリティ対策だけでなく、システムが利用できない場合の代替業務手順や、復旧までの対応体制をあらかじめ整備しておくことが重要です。

物流BCPでは、サイバー攻撃を防ぐことに加え、被害が発生しても重要な物流業務を継続できる仕組みづくりが求められます。

サイバー攻撃による物流停止の具体的な影響や事例については、関連記事「物流へのサイバー攻撃とBCP対策」で詳しく解説しています。

DXパラドックス|物流DXが進むほど、停止時のリスクが高まる?

物流DXによって、WMS(倉庫管理システム)や配車システムなどを活用した業務の効率化が進んでいます。

一方で、システムへの依存度が高まると、障害発生時に業務を継続するための代替手段が不足する可能性があります。

例えば、これまで現場担当者の経験や紙の帳票で対応できていた業務も、システムが停止すると出荷や配送の判断ができなくなるケースがあります。

これは、効率化が進むほど停止時の脆弱性が高まるという「DXパラドックス」の一例です。

物流BCPを策定する際は、デジタル化を進めるだけでなく、システムが使えない状況でも重要業務をどこまで継続できるかを確認することが重要です。

DXパラドックスやサイバー攻撃による物流停止の仕組みについては、関連記事「物流へのサイバー攻撃とBCP対策」で詳しく解説しています。

物流DXをジェンガに例えた図解。WMSや配車システムの導入で効率化が進む一方、手作業や経験が失われ、システム停止時のリスクが高まる構造
物流DXの進展とシステム依存のリスクを示した「DXパラドックス」の概念図

物流BCPに必要な3つの対策|守る・戻す・回す

サイバー攻撃による物流停止を防ぐためには、セキュリティ対策の強化が欠かせません。

しかし、どれほど対策を講じても、システム障害やサイバー攻撃のリスクを完全になくすことは困難です。

そのため、物流BCPでは、「システムが停止する可能性」を前提に、重要な物流業務をどのように継続するかを考える必要があります。

ロジエンスコンサルティングでは、物流の事業継続を支える対策を「守る・戻す・回す」の3本の足として整理しています。

1. 守る足|サイバー攻撃やシステム障害を防ぐ

「守る足」は、サイバー攻撃の侵入や被害の拡大を防ぐための対策です。

具体的には、次のような取り組みが挙げられます。

  • VPN機器やネットワーク機器の適切な更新
  • 多要素認証の導入とアクセス権限の管理
  • 委託先を含めたシステム接続状況の把握
  • 不審なアクセスや異常を検知する体制の整備

物流業務では、倉庫会社や配送会社など外部の事業者とシステムを連携している場合もあります。

自社だけでなく、委託先との接続環境も含めてリスクを確認することが重要です。

2. 戻す足|システム停止後の復旧に備える

「戻す足」は、システムが停止した場合に、必要なデータや機能を復旧させるための対策です。

具体的には、次のような取り組みが挙げられます。

  • ネットワークから切り離したバックアップの確保
  • バックアップデータの定期的な復元テスト
  • システムごとの復旧優先順位の設定
  • 復旧作業の担当者と連絡体制の明確化

バックアップを保存していても、実際に復元できなければ、業務再開にはつながりません。

そのため、バックアップを取ることだけでなく、復旧できることを確認しておく必要があります。

3. 回す足|復旧まで重要な物流業務を継続する

「回す足」は、システムが復旧するまでの間、代替手段によって重要な物流業務を継続するための対策です。

例えば、次のような方法が考えられます。

  • 紙の出荷指示書による出荷対応
  • 事前に確保した在庫情報の控えによる確認
  • 電話やFAXによる受注・配送手配
  • 優先出荷する得意先や品目の事前選定
  • 手作業による代替運用の訓練

ただし、すべての物流業務を通常どおり継続することは難しい場合があります。

だからこそ、平常時から「どの得意先の、どの品目を優先して出荷するのか」を決めておくことが重要です。

また、紙や電話による代替運用では、処理能力や情報の正確性に限界があるため、実際にどの程度の業務を継続できるのかを検証する必要があります。

3本の足を組み合わせることが重要

「守る足」で被害を防ぎ、「戻す足」で復旧に備え、「回す足」で復旧までの業務を継続する。

この3つは、どれか一つだけでは十分ではありません。

特に物流では、システムの復旧を待つ間にも、納品や出荷への対応が求められます。

物流BCPで重要なのは、システムを守ることだけでなく、システムが使えない状況でも重要な物流業務を継続できる体制を整えることです。

物流が止まる5つの原因|サイバー攻撃だけではないBCP対策

物流BCPを考えるうえで、サイバー攻撃は重要なリスクの一つですが、物流業務が停止する原因はそれだけではありません。

自然災害や車両事故、人材不足など、さまざまな要因によって物流機能が停止する可能性があります。

ロジエンスコンサルティングでは、物流停止につながるリスクを次の5つに整理しています。

1. 自然災害|物流拠点や輸送網の停止

地震・台風・豪雨などによって、物流センターの稼働停止や道路の通行止めが発生するリスクです。

拠点の被災状況だけでなく、代替拠点や代替輸送ルートを確保できるかが重要になります。

2. 車両事故|輸配送機能の停止

重大な交通事故や車両トラブルなどによって、配送業務に支障が生じるリスクです。

事故防止に向けた安全管理に加え、車両やドライバーを確保できない場合の代替輸送体制も検討する必要があります。

3. コンプライアンス違反|行政処分などによる業務停止

法令違反による行政処分や取引先・委託先の業務停止が、物流機能に影響するリスクです。

自社の法令遵守だけでなく、委託先の管理体制や代替事業者の確保も重要になります。

4. サイバー攻撃|物流システムの停止

ランサムウェアや不正アクセスなどによって、受注・在庫管理・出荷指示などのシステムが利用できなくなるリスクです。

セキュリティ対策やバックアップの整備に加え、システム停止中の代替業務手順を準備する必要があります。

5. 人材不足|重要業務を担う人員の不足

ドライバーや倉庫作業員の不足、特定の担当者への業務集中などによって、物流業務の継続が難しくなるリスクです。

業務の標準化やマニュアル整備、多能工化などを通じて、特定の人員に依存しない体制を構築することが重要です。

5つのリスクに共通するのは「代替手段の確保」

物流が停止する原因は異なっていても、事業継続に必要な考え方には共通点があります。

それは、通常の業務体制が使えなくなった場合に、重要な物流機能をどのように維持するかという視点です。

例えば、システム停止時には紙による出荷指示、拠点被災時には代替倉庫の利用、人材不足時には応援要員の確保など、リスクに応じた代替手段が求められます。

ロジエンスコンサルティングでは、こうした備えを評価する際に、「重要な物流業務を、代替手段で何日間継続できるか」という視点を重視しています。

これを「手で回せる日数」という考え方で整理し、得意先の在庫日数や必要な復旧期間と比較することで、優先的に対策すべき業務を検討します。

物流BCPでは、すべてのリスクを完全に排除することよりも、何が起きても重要な物流業務を継続できる体制を整えることが重要です。

物流BCPの策定方法|実効性を高める5つのステップ

物流BCPを策定する際は、災害やシステム障害などのリスクを洗い出すだけでなく、実際に物流が停止した場合の対応手順を具体化することが重要です。

ここでは、物流BCPを策定するための基本的な5つのステップを紹介します。

STEP1|重要な物流業務を特定する

まずは、出荷・輸配送・在庫管理などの業務のうち、停止すると事業への影響が大きいものを特定します。

特に、納期が厳しい製品や代替供給が難しい商品など、優先的に継続すべき物流業務を明確にしましょう。

STEP2|物流停止のリスクと影響を評価する

自然災害、車両事故、コンプライアンス違反、サイバー攻撃、人材不足など、物流停止につながるリスクを洗い出します。

それぞれのリスクについて、停止する業務、影響範囲、想定停止期間を整理し、優先順位をつけます。

STEP3|復旧目標と代替手段を設定する

重要業務ごとに、いつまでに復旧させる必要があるかを定めます。

あわせて、代替倉庫・代替輸送会社の確保、紙やExcelを使った暫定運用など、通常の仕組みが使えない場合の対応方法を検討します。

STEP4|対応体制と行動手順を明確にする

緊急時の責任者、意思決定の方法、取引先への連絡体制を決めます。

また、誰が対応しても一定の業務を継続できるよう、緊急連絡網や代替運用マニュアルを整備しておくことが重要です。

STEP5|訓練と定期的な見直しを実施する

物流BCPは策定して終わりではありません。

システム停止や輸送網の寸断などを想定した訓練を実施し、計画どおりに対応できるかを検証します。

訓練で見つかった課題を改善し、業務や取引先の変更に合わせて定期的に見直しましょう。

物流BCPで重要なのは、計画書を作ることではなく、緊急時に実際に動ける体制を整えることです。

明日からできる3つの物流BCP対策

物流BCPの整備には、大規模なシステム投資や設備の導入が必要だと考えられがちです。

しかし、重要なのは、最初からすべてのリスクに対応しようとすることではありません。

まずは、自社の物流業務で何を優先して守るべきかを明確にし、現在の備えを確認することから始められます。

1. 絶対に止めたくない物流業務を1つ決める

最初に取り組みたいのは、事業への影響が特に大きい物流業務を特定することです。

例えば、主要取引先への出荷、製造ラインに必要な部品の供給、温度管理が必要な商品の配送などが考えられます。

すべての業務を通常どおり継続することが難しい場合でも、優先順位を決めておけば、限られた人員や設備を重要な業務に集中できます。

「どの得意先の、どの品目を、どの程度まで出荷し続ける必要があるのか」を、経営層と現場で共有することが第一歩です。

2. バックアップから実際に復旧できるか確認する

データのバックアップを取得していても、復元手順が分からなかったり、必要なデータが不足していたりすると、業務再開が遅れる可能性があります。

そのため、バックアップの有無だけでなく、実際に復元できるかを定期的に確認することが重要です。

また、バックアップ自体がサイバー攻撃の影響を受けないよう、ネットワークから切り離した保管方法なども検討する必要があります。

3. VPN機器と委託先との接続状況を確認する

物流業務では、倉庫会社・配送会社・荷主企業など、複数の企業がシステムを通じて情報を共有しています。

そのため、自社のセキュリティ対策だけでなく、外部との接続状況を把握することも重要です。

まずは、利用しているVPN機器や外部接続先を一覧化し、更新状況・アクセス権限・認証方法などを確認しましょう。

委託先との接続についても、不要な接続が残っていないか、緊急時に遮断できるかを確認しておくことが望まれます。

小さな確認から物流BCPの整備を始める

これらの対策は、物流BCPを見直すための出発点です。

さらに、システムが使えない状況を想定し、紙の帳票や電話などの代替手段で、どの程度の業務を継続できるかを確認することも重要になります。

物流BCPは、計画書を作ることが目的ではありません。非常時に現場が実際に動ける状態をつくることが重要です。

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まとめ|物流BCPは策定だけでなく実行できる体制づくりが重要

物流BCPは、自然災害やサイバー攻撃、人材不足などによる物流停止に備え、重要な業務を継続・早期復旧するための計画です。

実効性のある物流BCPを整備するには、次の5つのステップが重要です。

  1. 重要な物流業務を特定する
  2. 物流停止のリスクと影響を評価する
  3. 復旧目標と代替手段を設定する
  4. 対応体制と行動手順を明確にする
  5. 訓練と定期的な見直しを実施する

また、計画の実効性を高めるには、「守る・戻す・回す」の3つの視点から対策を整備することが欠かせません。

物流BCPで重要なのは、計画書を作ること自体ではなく、緊急時にも必要な物流機能を維持できる体制を構築することです。

まずは自社の物流業務を見直し、優先して継続すべき業務や、代替手段の整備状況を確認することから始めましょう。

参考資料・出典

※「DXパラドックス」「守る・戻す・回す」「手で回せる日数」は、ロジエンスコンサルティング独自の整理・考え方です。