コラム

物流費を「1件あたり」で把握できるようになると、次に考えたいのが、どの作業に、どれくらいの費用がかかっているのかという点です。

同じ出荷1件でも、顧客や商品によって必要な作業は異なります。

例えば、通常の出荷に加えて、検品・ラベル貼り・梱包・返品処理などが発生する場合、物流費の負担は大きく変わります。

こうした作業ごとの費用を把握するために活用できるのが、物流ABC(活動基準原価計算)です。

物流ABCを使えば、倉庫内の費用を作業単位で整理し、顧客別・商品別の採算を考えるための基礎を作ることができます。


物流ABCとは、物流業務を複数の活動(作業)に分け、それぞれの活動にかかる費用を算出する原価計算の考え方です。

例えば、倉庫業務には次のような作業があります。

  • 入庫
  • 格納
  • ピッキング
  • 検品
  • 梱包・出荷
  • 返品処理

それぞれの作業に何人時かかったかを把握し、人時単価などを用いて費用を割り付けます。

さらに作業の処理件数を集計することで、1件・1行・1パレットなどの単位あたり原価を算出できます。

物流ABCの目的は、物流費の総額を見るだけでなく、費用が発生している作業を明らかにすることです。

物流ABCを活用して作業ごとの原価を算出するためには、まず物流費や物量、人時などのデータを整理することが重要です。必要なデータの種類や、手元のデータを使って物流費を把握する方法については、関連記事「56. 手元のデータだけで物流費の9割は説明できる|物流データの見える化シリーズ②」で詳しく解説しています。


物流ABCは、次の5つの手順で進めます。

まずは、倉庫内の作業を分類します。

入庫・格納・ピッキング・検品・梱包・出荷・返品処理など、最初は5〜7種類程度に整理するところから始めます。

代表的な1週間を対象に、各作業にどれくらいの時間がかかっているのかを記録します。

必ずしも年間を通じて測定する必要はありません。

繁忙期と通常期で作業量が大きく異なる場合には、それぞれ測定して補正することも重要です。

倉庫内で発生している費用を、測定した人時の比率などを使って各作業に割り付けます。

同じ期間に処理した件数を集計します。

例えば、ピッキングなら出荷行数、梱包なら個口数、入庫ならパレット数など、作業に適した単位を使用します。

最後に、各作業の費用を処理件数で割り、単位あたり原価を算出します。

作業別単価 = 作業に割り付けた費用 ÷ 作業の処理件数

これにより、どの作業に費用がかかっているのかを比較しやすくなります。

物流ABCで作業ごとの費用を配賦し、単位原価を算出する5つの手順

物流ABCによって算出した作業別原価の例を見てみましょう。

作業単位あたり原価(例示)
入庫・検品38円/パレット
格納26円/パレット
ピッキング54円/行
検品・仕分31円/行
梱包・出荷47円/個口
返品処理88円/件

このように、作業ごとに原価を分けることで、費用がかかっている工程を把握しやすくなります。

ただし、活動を細かく分類すればよいわけではありません。

分類が増えすぎると測定や集計の負担が大きくなるため、最初は5〜7活動程度から始め、必要に応じて見直すことが重要です。


物流ABCの価値は、作業別単価を算出することだけではありません。

その単価を使って、顧客別・商品別の物流原価を把握できる点にあります。

物流ABCによる顧客別物流原価の比較と取引条件の見直し方法

例えば、同じ受取額であっても、顧客ごとに出荷条件が異なれば、物流原価にも差が生まれます。

  • 1回あたりの出荷量
  • 納品頻度
  • 時間指定や緊急対応
  • 検品・ラベル貼りなどの附帯作業
  • 返品の発生率

こうした条件の違いが、必要な作業量や人時に影響します。

物流ABCによって作業ごとの原価を把握すれば、顧客別の物流費負担を具体的な数字で説明しやすくなります。


顧客別の物流原価が明らかになると、物流改善や取引先との交渉にも活用できます。

最小ロットや納品頻度、時間指定の範囲などについて、取引先と協議します。

作業負担の大きい条件について、料金設定や価格差への反映を検討します。

物流条件や価格の見直しが難しい場合には、採算性を踏まえて取引継続について経営判断を行います。

重要なのは、物流原価を把握すること自体ではなく、その数字を改善や意思決定につなげることです。


物流ABCを導入する際、最初からすべての作業を細かく分析する必要はありません。

まずは主要な5〜7活動を対象に、代表的な期間の人時と処理件数を集計します。

作業別単価を算出した後は、年1回または半期に1回程度を目安に見直す方法もあります。

物流条件や作業方法が変化すれば、原価も変わります。

継続できる範囲で測定・分析を行い、改善につなげることが大切です。


物流ABCは、物流費を作業単位で整理し、原価を把握するための考え方です。

作業ごとの人時・費用・処理件数を把握することで、単位あたり原価を算出できるようになります。

さらに、そのデータを顧客別・商品別に分析することで、物流条件の見直しや価格交渉、採算改善などにも活用できます。

原価が見えて初めて、条件を変える交渉ができる。

まずは自社の主要な物流作業を整理し、どの作業にどれくらいの費用がかかっているのかを確認することから始めてみてください。


物流データの見える化シリーズ

本記事は、物流データの収集から原価分析、改善への活用までを解説する「物流データの見える化シリーズ」全5回の第3回です。

第1回|売上高物流コスト比率だけでは見えない「単位あたり物流費」

第2回|物流費を把握するために必要な4つのデータと集計方法

第3回|物流ABCとは?作業別の原価計算と顧客別採算の見える化(本記事)

第4回|月次レポートで物流データを意思決定につなげる方法

第5回|物流データ基盤を整備し、自動化するまでの進め方

※第4回・第5回は順次公開予定です。


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